エポキシ樹脂とは
エポキシ樹脂とは、エポキシ基(エポキシ環、-CH-CH₂-O)が分子内に含まれている熱硬化性樹脂の一種で、優れた接着性、耐薬品性、機械的強度、電気絶縁性を持つ高分子材料です。エポキシ樹脂は、硬化剤との化学反応によって硬化し、多くの分野で使用されています。
エポキシ樹脂は、以下のような特性を持っています。
- 優れた接着性:多くの材料(金属、ガラス、プラスチックなど)に強固に接着。
- 耐薬品性:酸やアルカリ、溶剤に対して高い耐性。
- 高い機械的強度:硬化後は剛性と耐久性が向上。
- 電気絶縁性:電気的特性が優れ、絶縁材として利用可能。
- 加工性:硬化剤や充填材の選択により、性質を調整可能。
エポキシ樹脂の設計
硬化条件の選定
硬化方式 | 組成系 | 特徴 |
熱(アニオン重合) | エポキシ樹脂+硬化剤+硬化促進剤 | ・安価 ・設計の幅が広い |
熱(カチオン重合) | エポキシ樹脂+熱カチオン重合開始剤 | ・低温重合 ・速硬化 ・エポキシ樹脂単独で重合可能 ・1液が可能 |
光(カチオン重合) | エポキシ樹脂+光カチオン重合開始剤 | ・環境対応(低エネルギー) ・速硬化 ・エポキシ樹脂単独で重合可能 ・1液が可能 |
主剤:エポキシ樹脂の選定
- ビスフェノール型エポキシ樹脂
最も一般的なエポキシ樹脂です。ビスフェノールAまたはビスフェノールFとエピクロロヒドリンから製造されます。接着剤、コーティング剤、電気絶縁材料などに使用されます。
・ビスフェノールA型(高粘度、耐熱性が高い)
・ビスフェノールF型(低粘度、加工性に優れる) - ノボラック型エポキシ樹脂
フェノールノボラック樹脂を基にした構造です。硬化剤との反応で耐熱性や機械的強度が向上します。耐薬品性も高く、耐熱性が必要な電気絶縁材料や高温用途の塗料に使用されます。 - アリルシクロヘキサン型エポキシ樹脂
独特の環状構造を持つため、耐候性や透明性が高いです。 光学材料や特殊コーティングに使用されます。 - 脂肪族エポキシ樹脂
アリルグリシジルエーテルやグリシジルエーテルを基にした樹脂です。柔軟性や透明性に優れます。屈曲性を必要とする部品や透明コーティングに使用されます。 - 脂環式(シクロアリファティック)エポキシ樹脂
環状アルカンを基にした樹脂です。UV安定性が高く、耐黄変性に優れます。UV硬化型コーティングや電子材料に使用されます。 - 変性エポキシ樹脂
エポキシ樹脂に他のポリマーや化学物質を混合して特性を改善します。耐久性や特定の特性を求められる用途に使用されます。
・シリコン変性(柔軟性向上)
・ポリウレタン変性(耐衝撃性向上) - 水性エポキシ樹脂
水を媒介とするエポキシ樹脂です。環境に優しい特徴があります。水性塗料や接着剤に使用されます。
エポキシ樹脂の選定ポイント
・耐熱性: 高温環境での使用ならノボラック型。
・透明性: 光学用途ならアリルシクロヘキサン型やシクロアリファティック型。
・環境対応: 水性やUV硬化型を検討。
・柔軟性: 脂肪族エポキシ樹脂や変性エポキシ樹脂。
用途や特性に応じて、適切な種類を選択することが重要です。
硬化剤の選定
エポキシ樹脂の硬化剤にはさまざまな種類があり、それぞれ特性や用途が異なります。主なものを以下に挙げます。エポキシ樹脂と硬化剤の選択は、目的や必要な性能によって異なるため、用途に適したものを選ぶことが重要です。詳細な製品情報は、メーカーのHP、カタログ、技術資料を参考にすると良いでしょう。
- アミン系硬化剤
反応性が非常に高く、常温など比較的低温で硬化します。接着剤、コーティング、電気絶縁材料などに使用されます。ただし、吸湿性があり、黄色味を帯びることがあります。
・ポリエチレンポリアミン(PEPA)
・トリエチレンテトラアミン(TETA) - 酸無水物系硬化剤
一般的によく使われる硬化剤で、優れた耐熱性、化学耐性、電気絶縁性を持ちます。電子部品、絶縁体、耐熱材料に使用されます。硬化速度が遅いため、加熱が必要な場合やエポキシ樹脂硬化促進剤とセットで使用されることが多いです。
・フタル酸無水物(PA)
・メチルナジック無水物(MNA) - フェノールノボラック系硬化剤
高温下での強度や化学耐性に優れます。高性能コーティング、耐熱部材、IC封止材、積層板に使用されます。一方で、高温での硬化プロセスが必要となります。 - ジシアンジアミド(DICY)硬化剤
熱潜在性が非常に高い硬化剤で、機械的特性、電気特性に優れます。プリント配線板の材料であるプリプレグ、粉体塗料などに使用されます。 - カチオン重合硬化剤(カチオン重合開始剤)
熱酸発生剤、光酸発生剤を使用することで、熱や紫外線(UV)で硬化させます。エポキシ樹脂単独で重合が可能です。高速硬化が必要な電子材料や熱に弱い部材に使用されます。
エポキシ樹脂の硬化剤の選定ポイント
・使用環境: 温度、湿度、化学薬品への曝露など。
・硬化速度: 速乾性が必要か、時間をかけて硬化させるか。
・最終製品の特性: 機械的強度、耐熱性、電気絶縁性。
・作業条件: 室温硬化か、加熱硬化か。
・コストと安全性: 使用のしやすさや価格も重要な要素。
硬化剤は刺激性や毒性がある場合があるため、作業時には適切な安全保護具(手袋、マスク、ゴーグルなど)を使用してください。また、保存の際は、湿気や高温を避けて保存し、品質を維持することが重要です。
エポキシ樹脂硬化促進剤の選定
硬化剤の種類によっては、エポキシ樹脂との反応性が低いため、エポキシ樹脂の硬化反応を加速させる目的で、エポキシ樹脂硬化促進剤を使用します。一般的に、エポキシ樹脂に対して、0.1~2.0wt%添加します。エポキシ樹脂硬化促進剤の種類は、以下に示すように、用途や目的に応じて使い分けが必要となります。なお、エポキシ樹脂硬化促進剤は、エポキシ樹脂のみだけで単独硬化をさせることはできません。
また、硬化剤がポリアミン系の場合は、元々の硬化速度が速いため、硬化促進剤は使用しません。
- 三級アミン系
・DMP-30:2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール
・DBU:1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン
熱潜在性を持たせるために、DBUと有機酸の塩もあります。 - イミダゾール系
イミダゾールは、特に電子材料や高性能樹脂に使用されることが多い硬化促進剤です。特徴としては、比較的低濃度で効果を発揮します。優れた耐熱性と電気特性を提供。硬化速度の制御が容易です。
・ 2-メチルイミダゾール
・2-エチル-4-メチルイミダゾール - リン系
フェノール系の硬化剤で一般的によく使用されます。
・TPP:トリフェニルホスフィン
エポキシ樹脂の製造方法
エポキシ樹脂の硬化温度・時間は、硬化剤の種類や用途に応じて調整されます。
硬化剤の種類 | 硬化温度 | 主な用途 |
アミン系 | 25~150°C | 接着剤、塗料、複合材料 |
酸無水物系 | 120~180°C | 電子部品、絶縁材料 |
フェノール系 | 150~250°C | 耐熱部品、FRP(繊維強化プラスチック) |
UV/電子線硬化 | 低温(光照射) | インキ、コーティング、3Dプリント |
➡ 一般的には100~180°Cで数時間の加熱で完全硬化する場合が多い。
カチオン重合の反応メカニズム
・紫外線(UV)照射により、光開始剤が分解され、酸を生成
・生成した酸がエポキシ基を開環し、カチオン重合開始
・架橋構造が成長し、短時間で硬化完了
硬化剤を用いた熱硬化
<アミン硬化剤との反応(付加開環反応)>
アミン系硬化剤は、エポキシ基と付加反応を起こし、架橋構造を形成します。
最も一般的な硬化剤であり、耐熱性や機械的強度に優れた硬化物を得られます。
ジアミン(ポリアミン)との反応例を以下に示します。
- 原料の準備
・エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DGEBA)
・硬化剤:エチレンジアミン(EDA)、ジエチルトリエン(DETA) - エポキシ基とアミン基の開環付加反応
アミン基がさらに他のエポキシと反応し、架橋が進行。一般的に室温で反応が進行し、促進剤は不要。
<無水物硬化剤との反応(開環付加反応)>
酸無水物系硬化剤は、エポキシ基と反応し、高耐熱性の架橋構造を形成します。
無水フタル酸(PA)との反応例を以下に示します。
- 原料の準備
エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DGEBA)
硬化剤:無水フタル酸(PA)、無水トリメリット酸(TMA) - 酸無水物がエポキシ基と付加開環反応
架橋構造が進行し、耐熱性の高い硬化物を形成
熱カチオン重合
- 原料の準備
・モノマー:ジグリシジルエーテル(DGEBA)などのエポキシ樹脂
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DGEBA)
シクロアリファティックエポキシ
・熱開始剤:スルホニウム塩(例: トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート) - カチオン硬化
・エポキシ樹脂に熱開始剤(0.数~2.0wt%程度)を混合
・加熱(80~150°C) → 熱開始剤が分解し、カチオンを発生
・エポキシ基がカチオン性開環重合を開始
数秒~数分で完全硬化(速乾性があり、コーティング用途に適用)
・後処理(ポストキュア)でさらなる架橋を促進
➡ 用途:高耐熱樹脂(電気絶縁材、航空宇宙材料)、耐薬品コーティング
光カチオン重合
- 原料の準備
・モノマー:ジグリシジルエーテル(DGEBA)などのエポキシ樹脂
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DGEBA)
シクロアリファティックエポキシ
・光開始剤:スルホニウム塩(例: ベンジルメチル p-ヒドロキシフェニルスルホニウム
=ヘキサフルオロアンチモナート) - カチオン硬化
・エポキシ樹脂に光開始剤(0.数~2.0wt%程度)を混合
・紫外線(UV)を照射 → 光開始剤が分解し、カチオンを発生
・エポキシ基がカチオン性開環重合を開始
数秒~数分で完全硬化(速乾性があり、コーティング用途に適用)
・後処理(ポストキュア)でさらなる架橋を促進
➡ 用途:電子基板の絶縁コーティング、光学レンズ接着剤、3Dプリンター用樹脂