ウレタン樹脂とは
ポリウレタン(polyurethane)とも呼ばれる高分子化合物で、主にイソシアネート基(-NCO)とヒドロキシル基(-OH)を持つポリオールの反応によって生成される樹脂材料です。
ウレタン樹脂は、以下のような特性を持っています。ウレタン樹脂は、柔軟性、強度、加工性に優れているため、幅広い分野で不可欠な素材となっています。
- 弾性と強度の調整が可能で、軟質から硬質まで、幅広い物性が得られる。
軟質ウレタン樹脂: 柔らかく、クッション性が高い(例: フォーム材)。
硬質ウレタン樹脂: 高い剛性と耐久性を持つ(例: 構造部材)。 - 耐摩耗性と耐薬品性が優れる
摩耗しにくく、多くの化学薬品や溶剤に対して耐性がある。 - 加工性が高い
加熱や注型、スプレー塗布など多様な加工方法が可能。 - 断熱性・防音性が良い
熱伝導率が低く、断熱材として使用されるほか、防音性能も持つ。 - 接着性が良い
他の材料との接着が容易で、接着剤としても利用される。
ウレタン樹脂の用途
- 建築資材: 断熱材、防音材
- 自動車部品: バンパー、シートフォーム
- 家電製品: 保温材、緩衝材
- 繊維: 弾性繊維(スパンデックス、ライクラ)
- コーティング剤・塗料: 防水塗料、耐摩耗性塗料
- 医療用品: 人工皮膚、カテーテル
ウレタン樹脂の設計
ウレタン樹脂の種類を選択
- 軟質ウレタン樹脂
柔らかく、弾性があり、クッション性が高い。
主に家具や車両のシート材、包装材に利用。 - 硬質ウレタン樹脂
高剛性・高強度で、断熱性が高い。
主に断熱材や構造部材に利用。 - 熱可塑性ポリウレタン(TPU)
熱可塑性で成形加工が可能。
主にフィルム、靴底、タイヤ、シール材、耐摩耗部品などに利用。
ポリオール
主査成分であり、柔軟性や弾性を決定する成分。
イソシアネート
イソシアネートは、架橋や硬度を決定する成分ですウレタン樹脂の設計において重要な役割を果たします。その種類や特性によって最終製品の性能が大きく変わります。以下に、代表的なイソシアネートの種類と、それを製造・供給する主要なメーカーを紹介します。
(1)芳香族イソシアネート
・MDI(4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート):
・TDI(トルエンジイソシアネート)
2,4-TDIと2,6-TDIの混合物(一般的には80:20比率)
・XDI(キシリレンジイソシアネート)
(2)脂肪族イソシアネート
・HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)
・IPDI(イソホロンジイソシアネート)
・水添MDI(脂肪族MDI)
触媒・添加剤
ウレタン触媒(ポリウレタン触媒)は、ポリウレタン樹脂の製造プロセスで用いられる重要な化学物質です。ポリウレタンは、ポリオール(多価アルコール)とイソシアネートの反応によって形成されますが、この反応を効率的に進行させるために触媒が使用され、主に次の2つの反応を促進します。
・ゲル化反応(ポリオールとイソシアネートの反応によるポリマー鎖の形成)
・発泡反応(イソシアネートと水が反応して二酸化炭素を発生し、フォームを生成)
これにより、ポリウレタンフォームの硬さや密度、発泡速度などを調整できます。
ウレタン触媒の選択は、製品の特性や製造条件によります。以下が選定時のポイントです。
・反応速度: 速すぎると加工が難しく、遅すぎると効率が悪い。
・最終物性: 柔らかさ、硬さ、弾性などの要件に応じた触媒の選択。
・環境規制: 持続可能性や規制(例:低VOC触媒)の要件を満たす必要がある。
近年、従来のスズ系触媒は毒性や環境への影響が問題視されています。そのため、次世代触媒として、ビスマス系触媒やジルコニウム系触媒、低揮発性有機化合物(低VOC)触媒が注目されています。
(1) アミン系触媒
発泡反応を主に促進しますが、ゲル化反応にも影響を与える場合があります。
・ジメチルエタノールアミン(DMEA)
・トリエチレンジアミン(TEDA)
・ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル(BDMAEE)
・1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)
(2) 金属系触媒
主に樹脂化反応を促進します。
・スズ化合物(ジブチル錫ジラウレート(DBTDL)やスズオクチレート)
・ビスマス化合物
鎖延長剤
ウレタンの製造過程で使用される鎖延長剤(chain extenders)は、ポリオールとイソシアネートの反応において、ポリウレタンの分子量を調整し、最終的な物性(硬さ、強度、弾性など)をコントロールするための重要な成分です。
鎖延長剤は、低分子量化合物で、通常、2つ以上の反応性官能基(主にヒドロキシル基やアミノ基)を持っています。ポリウレタンの硬化段階で分子間架橋を形成し、硬質セグメントを強化します。
主に、ポリウレタンエラストマーや硬質フォーム、熱可塑性ポリウレタン(TPU)の製造で使用されます。鎖延長剤はその構造に応じて大きく次の2つに分類されます。
(1) ジオール系鎖延長剤
ヒドロキシル基(-OH)を2つ持つ分子。柔軟性と弾性を付与。
・1,4-ブタンジオール(BDO):最も一般的な鎖延長剤で、ポリウレタンエラストマーやTPUでよく使用される。
・エチレングリコール(EG):硬質ポリウレタンの硬さを向上。
・1,6-ヘキサンジオール(HDO):耐久性や柔軟性を強化。
(2) ジアミン系鎖延長剤
特長: アミノ基(-NH₂)を2つ持つ分子。速い反応性が特徴で、硬度や機械的強度を向上。
・エチレンジアミン(EDA)
・4,4′-メチレンビス(2-クロロアニリン)(MOCA):かつて広く使用されていたが、毒性の問題で代替品が開発されている。
・ジアミノジフェニルメタン(MDA)
(3) 他の化合物
アミノアルコール系
・ジエタノールアミン(DEA):同時にヒドロキシル基とアミノ基を持ち、硬さや柔軟性を調整。
芳香族系化合物:芳香族構造(ベンゼン環)を持つことで、硬度や耐熱性を向上。
ウレタン樹脂の製造方法
軟質ウレタン樹脂
軟質ウレタン樹脂の製造プロセス
- 原料の準備
・ポリオール(Polyol): 主成分であり、樹脂の柔軟性を決める。
・イソシアネート(Isocyanate): ポリオールと反応してウレタン結合を形成。
・発泡剤(Blowing Agent): CO₂発生剤や水などを使用し、発泡させる。
・触媒(Catalyst): 反応速度を制御(アミン系、スズ系など)。
・その他添加剤(整泡剤、難燃剤、着色剤など) - 混合・反応
上記の原料を適切な比率で混合。
化学反応により、ポリウレタンの架橋構造が形成される。
発泡剤の作用により、ガスが発生し、樹脂が膨張する。 - 発泡・硬化
反応が進むにつれ、フォーム状のウレタンが膨らみ、硬化。
硬化時間は配合や温度条件によって調整。 - 成形・仕上げ
型に流し込み、必要な形状に成形。
硬化後、カットや仕上げ処理を施す。
製造方法の種類
- 連続発泡法(スラブストック法)
ベルトコンベア上で連続的に発泡させ、大きなブロック状のフォームを作る。
家具やマットレス、断熱材などの製造に使用。 - バッチ発泡法
型に流し込んで、一定量ごとに発泡・硬化。
特定の形状の製品(クッション材、自動車部品など)に適用。 - インジェクションモールド法
射出成形機を使ってウレタンを型内で反応させる。
高精度の形状を作るのに適している。
硬質ウレタン樹脂
硬質ウレタン樹脂の製造プロセス
硬質ウレタン樹脂(ポリウレタンフォームなど)は、主に断熱材や構造材として使用されるポリウレタンの一種で、軟質ウレタン樹脂よりも高い剛性と耐熱性を持ちます。
基本的な化学反応は軟質ウレタンと同様ですが、架橋度が高く、発泡剤や添加剤の配合が異なります。
- 原料の準備
・ポリオール(Polyol):高官能基ポリオール(架橋密度を高めるため)を使用
・イソシアネート(Isocyanate):一般的に「ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(PMDI)」が使用される
・発泡剤(Blowing Agent):物理発泡剤(HFC、HC、CO₂など)
化学発泡剤(水+イソシアネートの反応でCO₂発生)
・触媒(Catalyst):反応促進(アミン系、スズ系)
・その他添加剤:難燃剤、界面活性剤(整泡剤)、安定剤など - 混合・反応
・ポリオール、イソシアネート、発泡剤、触媒などを適切な比率で混合。
混合物を型や連続生産設備に投入すると、以下の反応が進行:ウレタン結合形成(架橋反応)
ポリオールとイソシアネートが反応し、高密度のウレタン構造を作る。 - 発泡・硬化
・発泡反応
水とイソシアネートが反応してCO₂を発生(化学発泡)。
物理発泡剤の蒸発によっても発泡が促進される。
・硬化
高温または常温で硬化させ、最終的な強度を持たせる。 - 成形・仕上げ
・ブロック成形:後でカット・加工する大きな塊を作る。
・注型成形:金型に流し込んで硬化させ、特定の形状を作る。
・連続成形(スプレー、パネル化):建材や断熱材の製造に適用。
製造方法の種類
- ブロック発泡法
大きなウレタンブロックを作り、後からカットして使用。断熱材や建築用パネルなどに適用。 - インジェクション成形(RIM:反応射出成形)
2液(ポリオール+イソシアネート)を混合し、金型内で化学反応を進行させて成形。
自動車部品、電気機器ケースなどに使用。 - スプレー発泡
断熱材の施工方法として、建築現場でスプレー塗布しながら発泡・硬化させる。
住宅や冷凍倉庫の断熱材に使用。 - サンドイッチパネル成形
硬質ウレタンフォームを芯材として、金属やプラスチックの板と一体化させる。
断熱パネルや冷蔵庫の壁材に利用。
熱可塑性ポリウレタン(TPU)
ウレタンエラストマーの製造プロセス
ウレタンエラストマー(ポリウレタンエラストマー)は、ゴムのような弾性とプラスチックの耐久性を兼ね備えた材料です。
一般的に熱可塑性ポリウレタン(TPU)と熱硬化性ポリウレタン(CPU)の2種類があり、それぞれ製造方法が異なります。
- 原料の準備
・ポリオール(Polyol):軟質成分でエラストマーの弾性を決める。
ポリエステル系、ポリエーテル系が一般的。
・イソシアネート(Isocyanate):硬質成分で剛性や耐摩耗性を決める。
MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)
TDI(トルエンジイソシアネート)
NDI(ナフタレンジイソシアネート)など。
・鎖延長剤(Chain Extender):短鎖ジオールやジアミンを使用し、分子量を調整して
架橋構造を作る。
1,4-ブタンジオール(BDO)、エチレンジアミン(EDA)など。
・触媒(Catalyst):反応促進のために使用(アミン系、スズ系など)。 - ウレタンエラストマーの反応
2-1 熱可塑性ウレタン(TPU)の製造方法
TPUは熱で軟化・成形が可能なウレタンエラストマーで、射出成形や押出成形が可能です。
① バッチポリマー法
ポリオール、イソシアネート、鎖延長剤を混合し、反応重合させる。
反応温度は約180~250°Cで、反応を制御しながら適切な分子量を調整。
得られたポリマーを押出機でペレット化し、最終製品の原料として提供。
② 連続ポリマー法(押出成形)
ポリオールとイソシアネートを混合し、押出機内で反応させる。
溶融状態で成形し、冷却して固化。
ペレット化し、最終用途に応じて射出成形や押出成形で加工。
➡ 用途: 靴底、ベルト、チューブ、フィルム、携帯ケース、機械部品
2-2 熱硬化性ウレタン(CPU)の製造方法
CPUは架橋構造を持ち、熱で再成形できない強靭で耐摩耗性の高いウレタン
エラストマーです。
① キャスト法(注型成形)
ポリオールとイソシアネートを混合し、反応させる。
適切な温度(80~120°C)で反応を進行させ、粘度が適度に上がるのを待つ。
金型に注入(キャスト)し、硬化。
硬化後に取り出し、仕上げ加工(トリミングや研磨)を行う。
➡ 用途: 産業用ローラー、シール材、ギア、スプリング、ホイール
② RIM(反応射出成形)法
高速で混合し、金型に流し込む。反応時間が短く、大量生産に適している。
自動車部品や工業用部品に利用。
➡ 用途: 自動車バンパー、ダッシュボード、シール材、産業機械部品